『居なくなる』|花朝ヱスケヰプ

「なぁ、イト」
「なにかしら?」
「イトは……」
 そう言いかけて言葉が詰まった。力がまだないイトは俺に着いてきてくれているが、呪いが終わってイトに力が顕れれば、イトにとって俺は必要ないのではないかと、そう思うことがたまにある。
「なによ、しっかり言いなさいな?」
「いや……」
「もう、自分から言っておいて何も言わないだなんて、だからセンは子どもだって言われちゃうのよ」
「む、……そうか……」
「ちゃぁんと言って?」
「……」
 黙り込んでいると、イトの細い指が俺の顔に近づき、少し驚いた瞬間にそれは眉間に当たった。
「変な顔」
「変とはなんだ」
「……何か不安なことでもあるの?」
「……ある」
「まぁ」
 言葉とは裏腹に、気分が良さそうなイトに、更にそれとは反対の俺は、
「イトは……俺が居なくなったら――」
 そう言いかけて、さっきまで目の前にあったイトの指は、俺の言葉を止めるように口元に下がった。
「そんなこと、無いに決まっているでしょう? 変なこと言わないで?」
「……また変って、」
「じゃあ、突拍子もないこと言わないの」
「……わかった」
「でもどうして?」
「……イトが、居なくなる気がした」
「センが、じゃなくて?」
 心の底から不思議そうに聞かれた。
 俺が居なくなることも、イトが居なくなることも、俺にとっては同じだ。離れ離れになるということに変わりはない。だが、
「どうして俺が居なくならないって……」
 即座に断言したイトは、俺の事など全てわかっているように、俺にしか見せないいつもの笑みを浮かべた。
「センは強いけれど、私からは離れないもの」
「……どうしてそう言える?」
「あら、居なくなっちゃうの?」
「そんなことない」
「ほら、ね?」
「……敵わないな」
「……大丈夫よ」
 上品に立ち上がり、窓から心地よさそうな太陽に照らされている街を眺めて、
「私はいつでもセンと一緒にいるわ」
 柔らかい声色を俺だけに向けた。
「……ありがとう」
「まぁ、子どもみたい」
「褒めてないだろ」
「センらしいっていう意味」
「……褒められてない」
 意地悪そうに、誰にでも向ける笑顔を俺にくれたように見えた。